皮膚と脂肪層の深い関係
監修医師
MSA美容外科 院長モレロ オースティン誠
略歴
2018〜2024年 大手美容外科沖縄院 院長
2024年 MSA美容外科 開院
所属学会
日本美容外科学会(JSAS)正会員
日本美容外科学会(JSAPS)関連会員
日本美容外科学会(JSAS)認定専門医
The Rhinoplasty Society 海外会員
アメリカ美容外科学会(AACS)海外会員
日本美容皮膚科学会 正会員
日本美容外科医師会 正会員
なぜ脂肪注入で肌質改善を目指せるのか?
皮膚を支える脂肪層と、肌質改善脂肪注入の考え方
美容医療における脂肪注入というと、多くの方は「くぼんだ部分にボリュームを足す治療」というイメージを持たれるかもしれません。
額を丸くする。こめかみのくぼみを補う。頬こけを改善する。目の下の影をやわらげる。
もちろん、これらは脂肪注入の大切な役割です。
しかし近年、脂肪組織は単なるクッションやボリュームではなく、皮膚の機能を支える重要な組織であることが少しずつ分かってきています。
先日、「顎下の脂肪吸引をした後から、ずっとそこでニキビが多発している」という患者様がいました。Vaserでがっつり焼いたということだったので、脂肪と皮膚との深い関係性について思い出しました。以下、最近の論文も含めて再整理してみました。
皮膚の下の脂肪は、皮膚と会話している
皮膚の下にある脂肪は、以前は「余分な脂肪」や「エネルギーを蓄える場所」として考えられてきました。しかし現在では、皮膚に近い脂肪組織は、毛包、皮脂腺、血管、免疫細胞、線維芽細胞などと関わりながら、皮膚の状態に影響していると考えられています。
この領域で重要な概念のひとつが、dermal white adipose tissue、つまり真皮白色脂肪組織です。Nature Reviews Endocrinologyに掲載されたレビュー「Emerging nonmetabolic functions of skin fat」では、dermal white adipose tissueは毛包と密接に連動し、毛包由来のシグナルに反応して変化し、さらに毛包側にもシグナルを返す組織として説明されています。
つまり、脂肪層はただ皮膚の下に存在しているだけではありません。周囲の細胞と双方向に情報をやり取りし、皮膚の生理機能に関わる組織として考えられています。要するに、脂肪はただのクッションとか栄養の蓄える場所だけでなく、皮膚の機能を支えている重要な深い関わりがあるということなのです。
脂肪層は、創傷治癒や炎症にも関わる
dermal white adipose tissueは、創傷治癒の分野でも注目されています。Frontiers in Physiologyのレビュー「Insights into the unique roles of dermal white adipose tissue in wound healing」では、dermal white adipose tissueが創傷治癒の過程で、炎症反応、血管新生、再上皮化、細胞外マトリックス産生などに関わる可能性が整理されています。特に興味深いのは、皮膚の脂肪細胞を選択的に減らした実験モデルで、創傷治癒における再血管化や再上皮化が遅れることが報告されている点です。
これは、脂肪層が単なるスペースフィラーではなく、皮膚の修復環境を支える一部であることを示唆しています。
顎下脂肪吸引後の肌荒れから考えたこと
上述のように、顎下脂肪吸引などのあとに、一時的な肌荒れや毛包炎のような症状を感じる方がいます。
もちろん、その原因としては、術後の圧迫、腫れ、汗や皮脂の停滞、テープやフェイスバンドによる刺激、接触皮膚炎、毛包炎など、さまざまな要素が考えられます。
現時点で、「顎下脂肪吸引がニキビを増やす」と断定できる絶対的な強いエビデンスがあるわけではありません。ただし、顔面への脂肪注入に関するシステマティックレビューでは、合併症のひとつとしてacne activation、つまりニキビの活性化が少数例ながら報告されています。これは因果関係を証明するものではありませんが、脂肪組織への操作と、皮膚・毛包・炎症環境の変化について考えるきっかけになります。
脂肪層は、単に「取る」「減らす」だけの組織ではなく、皮膚の状態を支える微小環境の一部である可能性があります。
炎症性皮膚疾患と脂肪細胞
皮膚の脂肪細胞と炎症性皮膚疾患の関係についても研究が進んでいます。
「Phenotypical Conversions of Dermal Adipocytes as Pathophysiological Steps in Inflammatory Cutaneous Disorders」というレビューでは、皮膚脂肪細胞の脱分化、再分化、筋線維芽細胞への変化などが、ニキビや乾癬などの炎症性皮膚疾患の病態に関わる可能性が論じられています。
特にニキビにおいては、毛包・皮脂腺・炎症・瘢痕形成が複雑に関わります。脂肪細胞が炎症や瘢痕形成の背景に関与しうるという視点は、皮膚を表面だけでなく、深い層から考えるうえで非常に重要です。
ナノファットという発想
このような背景から、脂肪注入は「顔を膨らませる治療」だけではなく、「皮膚の質感に働きかける治療」としても注目されています。その代表的な概念が、ナノファットです。
Tonnardらは2013年、Plastic and Reconstructive Surgeryに「Nanofat grafting: basic research and clinical applications」を報告しました。この研究では、採取した脂肪を機械的に細かく処理し、ナノファットとして表在のしわ、瘢痕、下眼瞼の色調改善などに応用しています。研究内では、ナノファットにはviable adipocyte、つまり生きた成熟脂肪細胞は認められなかった一方で、adipose-derived stem cellsは豊富に存在し、6か月後にskin qualityの改善が観察されたと報告されています。
この論文は、ナノファットを「ボリュームを出す脂肪注入」ではなく、「皮膚の質感改善を目的とした脂肪由来組織の応用」として考えるきっかけになりました。
ちなみにTonnard医師は、MACSリフト(小切開リフトの一種)を考案した人物で、組織の温存について生涯にわたって提唱してきた医師の一人です。
顔面若返りにおけるナノファットの臨床報告
その後、ナノファットを顔面若返りに応用した臨床研究も報告されています。
Menkesらの2020年の論文「Subcutaneous Injections of Nanofat Adipose-derived Stem Cell Grafting in Facial Rejuvenation」では、顔面若返りを希望する50例にナノファット注入を行い、術後2〜4週から変化が現れ、6か月まで改善が続いたと報告されています。同研究では、患者評価としてskin qualityの改善が示され、組織学的にもdermal cellularity、vascular density、elastic fiber、collagen fiber densityの増加が観察されています。
ただし、著者らも追加研究の必要性を述べており、ナノファットの効果を過度に断定するのではなく、発展途上の治療概念として冷静に捉える必要があります。
瘢痕治療におけるナノファットのエビデンス
ナノファットは、顔面若返りだけでなく、瘢痕治療の領域でも研究されています。
2025年にAesthetic Surgery Journal Open Forumに掲載されたシステマティックレビュー「Effectiveness of Nanofat in the Management of Skin Scars」では、ナノファットを用いた皮膚瘢痕治療に関する12研究が検討されています。
多くの研究で、短期的には瘢痕の見た目、質感、患者満足度の改善が報告され、組織学的には皮膚厚、血管新生、コラーゲン沈着の改善が示されています。
一方で、質の高いランダム化比較試験の中には、12か月以降の持続的な有意差を示さなかったものもありました。つまり、ナノファットは非常に興味深い治療ですが、すべての症例に確実な効果を保証できるものではありません。
適応、注入層、処理方法、評価方法、長期成績については、今後さらに検討が必要です。
MSAが考える脂肪注入リジュビネーション
MSA美容外科では、脂肪注入を大きく2つの目的に分けて考えています。
ひとつは、顔の立体感を整える脂肪注入です。額、こめかみ、頬、目の下など、加齢や体重変化によって失われたボリュームを補い、自然な輪郭を整える治療です。
もうひとつは、肌質改善を目的とした脂肪注入です。細かく処理した脂肪を皮膚の浅い層へ薄く注入し、肌のハリ感、質感、細かいしわ、瘢痕、色調の改善を目指します。
この2つは、目的も注入層も考え方も異なります。
ボリュームを補う脂肪注入。
肌質に働きかけるナノファット。
この両方を適切に使い分けることで、輪郭と皮膚の質感を同時に考えた、より総合的な顔面若返りを目指します。
立体フェイス脂肪注入とナノファット・スキンリジュビネーション
MSAでは、顔の脂肪注入を以下のように整理しています。
立体フェイス脂肪注入
額、こめかみ、頬、目の下などに脂肪を注入し、顔の立体感や輪郭を整える治療です。
顔を不自然に膨らませるのではなく、骨格、皮膚の厚み、たるみ、左右差を見ながら、必要な部位に必要な量を補います。
ナノファット・スキンリジュビネーション
細かく処理した脂肪を皮膚の浅い層へ薄く注入し、肌のハリ感、質感、細かいしわ、瘢痕、色調の改善を目指す治療です。
大きなボリュームを出すことを目的とした治療ではありません。
皮膚の質感に着目した、脂肪由来組織の応用です。
大切なのは、入れすぎないこと
脂肪注入は、入れれば入れるほど良い治療ではありません。
特に顔は、少しのボリューム変化で印象が大きく変わります。
必要のない部位に入れすぎると、不自然な丸さや重さにつながることがあります。
また、肌質改善を目的としたナノファットは、大きなボリュームを出す治療ではありません。
効果の現れ方には個人差があり、変化は数か月単位でゆっくり見ていく必要があります。
MSA美容外科では、顔全体の構造、皮膚の厚み、たるみ、くぼみ、左右差を診察し、必要な部位に必要な量を丁寧に注入することを大切にしています。
脂肪を「取る」だけでなく、「活かす」時代へ
脂肪は、ただ取り除くものではありません。
そして、ただ膨らませるためだけの材料でもありません。
皮膚を支え、血流、炎症、創傷治癒、毛包環境、肌質に関わる可能性を持つ組織です。
MSA美容外科では、この脂肪組織の可能性に着目し、輪郭と肌質の両方から自然な若返りを目指す治療として、脂肪注入リジュビネーションを行っています。
ただし、脂肪注入やナノファットは魔法の治療ではありません。
効果には個人差があり、適応の見極め、注入層、注入量、術後経過の理解が重要です。
だからこそ、MSAでは単に「足す」のではなく、顔全体を診断し、引き上げるべきか、補うべきか、肌質に働きかけるべきかを慎重に判断します。
参考文献
- Tonnard P, Verpaele A, Peeters G, et al. Nanofat grafting: basic research and clinical applications. Plastic and Reconstructive Surgery. 2013;132(4):1017–1026.
- Plikus MV, Guerrero-Juarez CF, Ito M, et al. Emerging nonmetabolic functions of skin fat. Nature Reviews Endocrinology. 2017/2018.
- Li Y, Long J, Zhang Z, Yin W. Insights into the unique roles of dermal white adipose tissue in wound healing. Frontiers in Physiology. 2024.
- Kruglikov IL, Scherer PE. Phenotypical Conversions of Dermal Adipocytes as Pathophysiological Steps in Inflammatory Cutaneous Disorders. International Journal of Molecular Sciences. 2022.
- Menkes S, Luca M, Soldati G, Polla L. Subcutaneous Injections of Nanofat Adipose-derived Stem Cell Grafting in Facial Rejuvenation. Plastic and Reconstructive Surgery Global Open. 2020;8(1):e2550.
- Liang ZJ, Lu X, Li DQ, et al. Precise Intradermal Injection of Nanofat-Derived Stromal Cells Combined with Platelet-Rich Fibrin Improves the Efficacy of Facial Skin Rejuvenation. Cellular Physiology and Biochemistry. 2018;47(1):316–329.
- Gornitsky J, Viezel-Mathieu A, Alnaif N, Azzi AJ, Gilardino MS. A systematic review of the effectiveness and complications of fat grafting in the facial region. JPRAS Open. 2019;19:87–97.
- Effectiveness of Nanofat in the Management of Skin Scars: A Systematic Review. Aesthetic Surgery Journal Open Forum. 2025.
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