話題の「抜糸不要の切開リフト」について考える

監修医師

モレロ オースティン誠

MSA美容外科 院長モレロ オースティン誠

1989年、アメリカ生まれ。10歳より沖縄で育つ。日本とアメリカ、双方の文化や価値観に触れてきた経験を生かし、患者様一人ひとりが持つ異なる美意識や希望を尊重した診療を大切にしています。日本語・英語の両方で診療を行い、国内外の知見を取り入れながら、自然で長期的な美しさを目指した美容医療を提供しています。大手美容外科にて約8年間、美容外科・美容皮膚科診療に携わり、2024年にMSA美容外科を開院。

略歴
2018〜2024年 大手美容外科沖縄院 院長
2024年 MSA美容外科 開院

資格・所属学会
日本美容外科学会(JSAS)認定専門医
日本美容外科学会(JSAS)正会員
日本美容外科学会(JSAPS)関連会員
The Rhinoplasty Society 海外会員
American Academy of Cosmetic Surgery(AACS)正会員
日本美容皮膚科学会 正会員
日本美容外科医師会 正会員

最近、福岡で行われているという「抜糸を必要としない切開フェイスリフト」が、SNSなどで話題になっているようです。切開するにもかかわらず抜糸がなく、固定やドレーンも必要なく、腫れも少ない。早ければ翌日から仕事や外出ができ、それでいてSMASまで処理し、長期間のリフトアップ効果が得られると説明されています。

患者様にとって、これほど魅力的に聞こえる手術はないでしょう。しかし、美容外科医としてその説明を見ると、疑問しか湧きません。というか、そのような手術が本当にあるならば、習いにいきたいものです

最初に明確にしておきたいのは、「抜糸を必要としない」ということ自体が、医学的にあり得ないわけではないということです。皮膚の内側を吸収糸で縫合したり、皮膚接着剤などを併用したりすれば、表面の糸を後日抜糸しない閉創は可能ではあります。ただ、やっぱり表面からもお守りとしての縫合は欲しいものです。傷が汚くなってしまってからのアフターケアの方がよっぽど大変ですから。

沖縄にも「効果が分からなかった」という患者様が来院しました

実は、当院にも、福岡でこの話題の切開リフトを受けたものの、「切開までしたのに、何も変わらなかった」というご相談で来院された患者様がいらっしゃいました。それがこの施術を知ってしまったきっかけでした。

抜糸がなくて、SMASも処理して、80分くらいで終わりました」とのことでした。

SMASも処理して、80分で終わる切開リフト。どんな天才外科医なのか?と気になり、患者様と一緒に噂のクリニックのホームページを見て全てをわかりました。

「この手術、効果あるわけないですよ」とお伝えし、二人で笑いました

一人の患者様の経過だけを見て、特定のクリニックや術式全体を否定することはできません。また、当院として個別のクリニック名を挙げて批判する意図もありません。ただ、耳の周囲には切開線が残っているにもかかわらず、頬やフェイスラインの組織が十分に移動した形跡が乏しい状態を見ると、考えなければならないことがあります。

患者様は、切開線が残ることを受け入れ、手術費用を支払い、少なからず身体的な負担を負っています。その代償に見合う変化が得られていたのでしょうか?「耳の前を切った」という事実だけで、本格的なフェイスリフトを受けたと考えてよいのでしょうか?おそらく、皮膚の切除もしていないでしょう。切れ目を入れて、中で何かをして、表面を縫っただけ。ローリスクといえばローリスクですが…

私は切開 facelift をやる時、本気です。前日の夜もずっと患者様の顔を思い浮かべて、考えて、手術に挑んでいます。そのためにも、めちゃめちゃ勉強しております。仕事中も、家に帰ってからも、トイレしている時も、ずーーーっと勉強しております。

患者様は、もっともっと強い気持ちや不安を抱えて、毎日を過ごし、決心をし、手術に臨んでいることでしょう。

フェイスリフトは「皮膚を切って引っ張る手術」ではありません

切開フェイスリフトという名前から、皮膚を切り、後方へ引っ張り、余った部分を切除する手術だと思われることがあります。しかし、現代のフェイスリフトで皮膚を強く引っ張ることは、あまりありません。

顔の皮膚の下には、SMASと呼ばれる筋膜性の層があります。さらにその深部には、脂肪、表情筋、広頸筋、顔面の各組織を骨や深部筋膜へ固定するretaining ligament、そして顔面神経が立体的に存在しています。

加齢によるたるみでは、皮膚だけが伸びているわけではありません。SMAS、脂肪、広頸筋などの深い組織も下方へ移動し、固定された部分との間に段差が生じます。その結果として、ジョール、深いほうれい線、マリオネットライン、フェイスラインの崩れ、首の緩みなどが現れます。

フェイスリフトの歴史は、単なる皮膚切除から、SMAS、顔面の靱帯、解剖学的スペース、顔面神経の走行を考慮する手術へと発展してきました。

したがって、耳の前を切開しただけでは、フェイスリフトの効果は生まれません。切開は、皮膚の下へ到達するための入口にすぎません。入り口を作って、閉じただけ ということでしょう…。

小さな切開や短いダウンタイムが悪いわけではありません

切開線が短いミニリフトや、剥離範囲を限定したフェイスリフトが、すべて無意味というわけではありません。

たるみが軽度で、改善したい範囲が下顔面の一部に限られている患者様であれば、限定的な手術でも必要な効果が得られることがあります。患者様の状態に応じて、術式を工夫するのは医学的に当たっています。

問題は、小さな手術を大きな手術と同じように説明することです。いわゆる 優良誤認(ゆうりょうごにん)です。

剥離範囲が狭く、組織の移動量も限られるミニリフトであれば、「改善できる範囲は限定的です」「強いたるみや首の緩みには十分な効果が出ないことがあります」「deep planeなどのリフトに比較すると、効果は控えめです」などと説明すべき!

フェイスリフトには、minimal access、lateral SMASectomy、extended SMAS、composite facelift、deep plane faceliftなど、さまざまな術式があります。それぞれ剥離する層、範囲、組織の移動量、適応が異なり、「切開フェイスリフト」という名前だけでは、実際に行われていることはそれぞれ目的に応じて異なるのです。

小さな手術を小さな手術として、適応と限界を明確に説明するのであれば問題はありません。しかし、非常に限定的な操作であるにもかかわらず、本格的なフェイスリフトと同等の長期効果が得られるように宣伝するのであれば、患者様の期待との間に大きなずれが生じます。

「腫れない」のではなく、「組織をあまり動かしていない」可能性

手術後の腫れや内出血が少ないことは、患者様にとって大きなメリットです。私たち外科医も、丁寧な剥離、確実な止血、適切な麻酔管理によって、可能な限りダウンタイムを少なくする努力をします。

しかし、ダウンタイムが少ないことだけを見て、手術の効果や質を判断することはできません。

深い層を剥離し、靱帯を解除し、頬やフェイスラインの組織を実際に移動させれば、身体には一定の炎症反応が必ず生じます。これは手術操作をしている以上、避けられないことです。

もちろん、腫れが強ければ良い手術ということではありません。乱暴な剥離や不十分な止血によって、必要以上の腫れが生じることもあります。

一方で、「ほとんど腫れない」「固定も不要」「翌日から普通に仕事ができる」「強い痛みもない」「それでも大きなたるみが長期間改善する」という条件だと、そもそもしっかりとした操作を行っていないと思うしかありません。

腫れが生じるほど組織を剥離・移動させていないためだとしか、思えません。

我々は、その適切な手術操作をしながらも、なるべく腫れないようにと工夫をして、時間を使っているのですから、やはりこういう「腫れない切開リフト」を全面的に出している物を見てしまうと、複雑な気持ちになります。

当院で行っている「本気の切開フェイスリフト」

MSA美容外科では、切開フェイスリフトを「耳の前を切って、皮膚を後ろへ引っ張る手術」とは考えていません。

当院では患者様の状態に応じて、deep plane faceliftやextended deep plane faceliftを行っています。皮膚とSMASを一定の範囲で複合組織として扱い、頬やフェイスラインの移動を妨げるretaining ligamentを必要な範囲で解除します。靱帯を解除することで、皮膚だけを強く引っ張るのではなく、下垂した頬、SMAS、広頸筋などの深部組織(簡単にいうと顔の柔らかい肉の土台)を一体として移動させることが可能になります。顎下も切開して首の中央部を直接確認します。広頸筋の離開、顎下脂肪、顎二腹筋などが首の輪郭を悪化させている場合、耳の周囲から引き上げるだけでは十分な改善が得られないことがあるためです(顎下腺は当院では切除は原則として行っていません)。

これは、短時間で表面だけを引っ張る手術ではありません。顔面神経の走行を理解し、危険な部分を見極めながら、必要な靱帯を解除し、出血をコントロールしながら、左右の組織を適切な位置へ移動させる手術です。

手術時間も必ず長くなります。どんなに短くても5時間は必要です。

術後管理も必要です。そして当然、ダウンタイムもあります

これが、当院の考える「本気の切開フェイスリフト」です。

本当の美容外科手術には、ダウンタイムがあります

美容医療の広告では、「切らない」「腫れない」「痛くない」「バレない」「すぐに仕事へ戻れる」という言葉が好まれます。しかし、身体の組織を実際に剥離し、位置を変え、固定すれば、治癒反応が起こります。腫れ、内出血、傷の赤み、硬さ、感覚の鈍さなどは、組織が治癒する過程で生じる可能性があります。本当の美容外科手術にはダウンタイムがあります。

Deep plane faceliftやextended deep plane faceliftでは、術後早期に頬や首の腫れ、むくみ、つっぱり感が生じます。耳周囲や頬の感覚が一時的に鈍くなることもあります。大きな腫れが落ち着き、人前に出やすくなるまでには、一般的に数週間程度を考える必要があります。また、傷の赤み、皮下の硬さ、細かな左右差、感覚の違和感などが落ち着くまでには、数か月を要することもあります。

当院では、このダウンタイムを隠して手術を勧めることはしません。手術で得られる可能性のある効果と、そのために必要となる回復期間を、両方説明することが重要だと考えています。

他にも重要なのが、 本当の美容外科手術にはリスクがあることです。

切開フェイスリフトには、血腫、感染、創部離開、皮膚壊死、耳周囲のしびれ、脱毛、肥厚性瘢痕、耳垂の変形、左右差、顔面神経障害などのリスクがあります。血腫が生じた場合には、緊急処置や再手術が必要になる可能性もあります。

deep plane faceliftであっても、合併症がなくなるわけではありません。深い層を操作する以上、顔面神経や血管、皮膚血流について十分な解剖学的理解が必要です。

本当に安全な医療とは、「リスクがありません」と説明することではありません。存在するリスクを患者様へ説明し、その発生率を下げるための手術を行い、合併症が起きた場合には早期に発見して対応することです。

当院では、facelift術後、必ず2〜4日後に経過観察を入れます。これはモニター画像を撮影するためではなく、「血腫」などが発生していないかをちゃんと確認するためです。

リスクは0%にはできません。だから、確認をするのです。

リスクを話さないことが、患者様を安心させる医療ではありません。リスクを正しく説明し、そのうえで手術を受けるかどうかを一緒に考えることが、本当のインフォームド・コンセントだと考えます。

抜糸は、傷を確認するための大切な診察でもあります

当院では、耳周囲の皮膚に使用した糸は、傷の状態を確認しながら適切な時期に抜糸します。

抜糸のための受診は、単に糸を取り除くためだけのものではありません。傷が開いていないか、感染の兆候がないか、皮膚の血流に問題がないか、血腫や液体貯留がないか、耳垂や生え際に不自然な緊張がないか、左右の腫れに大きな差がないかなどを医師が確認する機会でもあります。

もちろん、吸収糸を使用して抜糸を不要にすることはできます。しかし、表面の抜糸が不要であっても、術後診察まで不要になるわけではありません。むしろ、大きな手術であればあるほど、術後の経過観察は重要です。

「抜糸のために通院しなくてよい」という便利さだけではなく、術後に誰が傷を診察するのか、血腫や感染が起きた場合に誰が対応するのかまで確認する必要があります。

通院が必要のないフェイスリフト

血腫などを引き起こしている可能性がない

そこまでの手術操作をしていない

効果がない

これが、おそらく答えではないでしょうか?

フェイスリフトの歴史と工夫を、あまりにも軽く扱っていないでしょうか?

フェイスリフトには、長い歴史があります。100年以上も前から行われております。現在のフェイスリフトは、その先人たち工夫の上で成り立っているのですが、世界中の美容外科医が長い時間をかけ、合併症や不十分な結果と向き合いながら発展させてきた手術なのです。

あーでもない、こーでもないと学会で議論したり、論文を発表したり、治療成績をシェアしたり、創意工夫で作り上げてきた物なのです。

そこに美容外科糸して関わる以上は、できる限り勉強して、歴史も含めて習得する必要があると思います。

それにもかかわらず、「ほとんど腫れない」「翌日から仕事ができる」「抜糸も通院も必要ない」といった手軽さだけを強調し、深部組織の処理や術後管理について十分に説明しないのであれば、それは単に一つの術式を軽く見ているだけではありません。安全性と効果を高めるために積み重ねられてきた、100年以上にわたる美容外科の歴史と工夫そのものを、あまりにも軽く扱っているように感じます

もちろん、医療は進歩するものです。過去の方法よりも傷が短く、腫れが少なく、回復が早い術式が生まれる可能性はあります。

しかし、本当に画期的な手術であるならば、なぜ腫れが少ないのか、どの層を剥離し、どの組織を移動させ、どこへ固定するのか、従来法と比較してどのような結果が得られるのかを、症例と医学的根拠によって示すべきです。

学会発表や論文、もしくは地方の勉強会でもいいのです。

私は幸い、昔より「琉球美容外科学会」という非公式の会に参加をしており、そこでは沖縄県内の様々な美容の先生と症例を持ち寄って、議論をしております。先輩から若手まで、みんなフラットな関係で学び合えるとても有益な会です。

長年積み上げられてきた解剖学や手術技術、そして歴史を飛び越え、都合のよい部分だけを取り出して「新しいフェイスリフト」と呼ぶことには、慎重であるべきだと考えます。

美容外科 と 美容外科

「抜糸不要」という説明自体が、必ずしも嘘というわけではありません。吸収糸などを使えば、実際に抜糸を行わずに皮膚を閉じることはできます。しかし、抜糸が不要であることは、フェイスリフトの効果や質を保証しません。抜糸がないからといって、手術のリスクやダウンタイムまでなくなるわけでもありません。

本当に確認すべきなのは、何針縫ったかではなく、皮膚の下で何を行ったのかです。

翌日から外出できたかではなく、数か月後に頬、ジョール、フェイスライン、首の組織がどれだけ適切な位置へ移動しているかです。切開したかどうかではなく、その切開、費用、ダウンタイム、リスクに見合うだけの変化が得られているかです。

本当の美容外科手術には、ダウンタイムがあります。

本当の美容外科手術には、リスクがあります。

世の中には、本気で患者様のことを考え、解剖を学び、技術を磨き、リスクと向き合いながら行う美容外科があります。一方で、耳ざわりのよい言葉や、手軽さだけを強調し、実際の効果や限界を十分に伝えない美容外科もあります。残念ながら、患者様がその違いを見極めなければならない時代です。

美容外科 と 美容外科

切らない、腫れない、痛くない、抜糸がいらない。その言葉だけで選ぶのではなく、どのような手術が行われるのか、どの程度の効果が見込めるのか、どのようなリスクがあるのか、そして術後まで誰が責任を持って診てくれるのか。そこまで確認したうえで、治療を選んでいただきたいと思います。

美容医療は、本来、患者様をより幸せにするための医療です。だからこそ、誇張された広告ではなく、適切な診断と、必要十分な治療が、より多くの患者様に届くことを願っています。


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